【本の紹介】
建築家、環境運動家として数々の仕事を残してきた大岩剛一氏(2019年4月逝去)の生前の文章を精選。高度成長期の都市部で私達が手放してしまった風景と、2000年以降のエコロジーへの関心の高まりのなかで、日本の伝統建築技術とあわせたストローベイル工法など、剛一氏が情熱を注いだ「懐かしい未来」への思想と実践が綴られた一冊。これからの暮らしのあり方を考えたいすべての人に。
<「序 スロー・デザインと懐かしい未来」より>
北米やオーストラリアではエコ・ハウスとして人気の「ストローベイル・ハウス」が、日本でも注目されている。その静かなブームの中心人物のひとりが建築家、大岩剛一である。その著『わらの家』は、しかし、単なるストローベイルについての本でもないし、ただの建築の本でもない。それは、「家に住まう」ということが元々どういうことを意味していたのかを、子どもたちと共に考えようという本だ。
家にメジロがやって来る。それだけですごく幸せになる。そこでは、「ああ、昔はもっとたくさん来ていたな」という感傷的な気分も、単なる自分の思い出への執着ではなくて、現在や未来とつながるものになっている。それが「懐かしい未来」ということじゃないかな。「わらの家」についても同じようなことが言えると思う。身近な山や里から来たわら、モミ殻、木、土。それら一つひとつが「懐かしい」ものでしょ。それらを組み合わせることで多様な新しい表現が生まれてゆく。メッセージ性にも富んでいるし、それに関わる人たちの暮らし方さえ変わってゆく。何も、昔の農家や町家と同じものをつくろうというわけじゃない。ぼくはこれから出会ってゆく家づくりのことを考えてワクワクしています。
【もくじ】
序 スロー・デザインと懐かしい未来 大岩剛一+辻一 ◎2006
第一部 忘れられた風景からの都市論
裏庭◎1988
ダリアとカンナ ◎1988
汚物をめぐる風景 ◎1990
路地と長屋 ◎1992
銭湯 ◎1992
川崎球場 ◎1992
空き地論ー原野の記憶から◎1995
ボロ切れと大地ーボンベイ・そしてニッポン◎1995
原野が紡ぐ風景 ◎1996
第二部スロー・デザインその思想と実践
藁の家の宇宙オーストラリアにて◎2000
レッドウッドの森と藁の家 カリフォルニアにて◎2000
藁が紡ぐ物語ーカフェスローの試み◎2002
巣作りという物語りー建築家・小清水園恵のライブ活動 ◎2002
里山とスロー・ランドスケープー循環する時の風景 ◎2003
ストローベイル・ハウスと日本の森 ◎2004
スローハウスの暮らし◎2008
人と人、人と自然を繋げる家◎2010
小さな村の大きな力. 東部ブータンにて◎2016
循環する魂のスミカー仰木の里山から◎2019
対談 大岩剛一と「あいだ」の建築 山崎亮×辻信一 ◎2021
あとがき 大岩由利+辻信一
大岩剛一略歷
参考文献・初出一覧
大岩剛一選集 ロスト&ファウンド (著)大岩剛一
<発行>
2022年3月4日
<判型:頁数>
四六判:272
<ISBN:Cコード>
978-4-9905455-8-1:C0052
<編者>
辻 信一
<ブックデザイン>
藤本孝明(如月舎)
<表紙写真>
浅野 豪